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おこぼ

二月に入ってお年越しも済んだら、春のをどり前の祗園町もしばしの静寂につつまれとります。観光のお方もまばらで、花見小路にもいつもの静かな夜が戻って参りました。行くあても無うて、しゃあないし宿坊へ顔出したら、ここもひっそりとしとります。おかん相手にああでもないこうでもないちゅうたしょうむない話をしながら杯を重ねてるうちに夜も更けて参ります。

話が途切れてしばしの静寂の中、※1ろおじの奥からこぼ、こぼ、ちゅう音が聞こえて参ります。
「あっ、○×ちゃん帰って来はったな」
「へぇ〜、おこぼの音で誰かて分るんかいな」
「そら分かりますがな、皆それぞれに癖があるもんどっせ歩き方にも。特に家の妓やったらめったと間違うたりせぇしまへん。」
「ただいま帰りました〜」
「ほんまや、あの声は確かに○×ちゃんや、いや大したもんやな」

【おこぼ】
おこぼ

この舞妓ちゃん専用のおこぼ、今どきの女の子の履いてる厚底ブーツみたいなもんどすけど、値段はえらい違います。おこぼ一足でバリーの靴が二足は買えまっしゃろ。まぁ、そないに数売れるもんやおへんさかいに、しゃあないちゅうたらしゃあないんどすけど。桐の台に畳表、鼻緒は出たてのときは紅色どすけど、年数がたつにつれ薄い色合いのもんへと変わっていくのんどす。これは襟の色とおんなじようなもんどすな。

このおこぼ、高さも12センチ位おすさかいに、背の低い舞妓ちゃんには天の助けみたいな小道具どすけど、背の高い妓には逆に苦痛の種になんのどす。最近の発育のええ子がおこぼ履いたら、たちまち180センチ越すの大女になってしもて、歩いてても頭ひとつ群れから抜け出しとりますさかい、どこいってもすぐに見つかってしまうんどす(笑)

お座敷へ行くとき大抵はおこぼを履いて行くんどすけど、行き先が坂の多いとことか、雨の日ぃなんかは草履に替えて出かけんのどす。そらあんなもん履いて坂道登ったら足がずり落ちて脱げてしまいますわな。昔、花見小路が石畳に替わる前の工事中、でこぼこ道でこけて足※2ぐねった舞妓ちゃんもおりました、可哀想にその妓、都をどりは次の日からお休みどした。

後、ホテルなんかのパーティーへ呼ばれたときなんかも、おこぼ履いて行くんどすけど、これがホテル側にはえらい不評で。ちゅうのんも、おこぼの底のささくれだった桐の屑がホテルの絨毯にみなついてしもて、後の掃除が大変なんどすて。

超売れっ妓で気張ったはる舞妓ちゃんもおこぼは履かはらしまへん。そらお座敷からお座敷へと移動するときにおこぼよか草履の方が早歩けますさかいに、いや小走りに走ってはりますな、そんな妓は。

漆黒に沈んだ青柳通をぷらぷらと歩いてたら、後ろから速足で近づいてくる足音が。襲われるんかいなて後ろを振返ると○□ちゃんやおへんか。

「なんや○□ちゃんかいな、そないに慌ててどこ行くん?」
「あ、こんばんはお父はん、それが次○△はんとこで呼ばれてんのどすけど、その前に別のお客さんから※3挨拶だけでも、て云われて走らして貰うてんのどす」
「そないに稼いでどないすんにゃ、屋形が儲かるだけやで。走るんやったら自前になってからにしぃや」
「へぇおおきに。ほなすんまへん、また近いうちに※4たんねとぉくれやす」
て云いながらまた走り出しとります。あんな妓が2・3人いたら屋形は左うちわどすな(笑)

※1 ろおじ  京では路地を、ろおじと発音すんのどす。八代
        目の子供のころの遊び場どした

※2 ぐねる  くじく

※3 挨拶だけ こんばんは、さいならやおへん(笑)15分〜
        30分位の短いお座敷どす。大概は前も後も詰っ
        てるところに無理やり押し込む感じどすな。

※4 たんねる 尋ねる、お座敷などへ呼ぶときに屋形に聞くこ
        と、つまり今度呼んで下さいという意味。  

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2004年02月25日 20:08に投稿されたエントリーのページです。

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