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引き祝い

ついこの間、除夜の鐘を撞きに行ったて思うてたのに、気がついたら、小正月も過ぎ町は日常に戻っております。皆はんも正月ボケからはもう復帰されましたやろか?去年の暮、祗園町から一人の舞妓ちゃんが出て行かはりました。皆はんもようご存知の舞妓ちゃんどす。詳しいことは控えますが、ちゃんとした円満退社どした。

さて、今日は「引き祝い」のお話どす。え、引き祝いて何や?てどすか?引き祝いちゅうのんは、芸・舞妓はんらが妓籍を抜けるとき、つまり引退するときに今までにお世話になったおっしょはん、屋形やお茶屋はん、同僚・先輩・後輩らにする挨拶のことなんどす。これをきちんとせんで辞めたりしたら、その花街に何ぞ不義理をして辞めた、ちゅう事になんのどす。(例えば、ある日突然、挨拶もなく逃げ帰ったとか)そうなったら、以後誰も相手にはしてくれまへん。せやし、引き祝いもせんと辞めたりした妓が後で、もっぺんカムバックを、て思うても出来しまへんのどす。

今では、食生活の変化とかで実際には実用的な商品券なんぞを配るんどすけど、昔は「白蒸し」を配ったもんどす。白蒸しちゅうたら、小豆の入らへん白いおこわのことどす。箱の中に入ってあんのが白蒸しだけやと、「うちはもう二度とこの街へは戻って来ぃしまへん」ちゅう意味になんのどす。けど、「もしかしてまた帰って来るやも知れへん」、ちゅうときには、白蒸しの中に少し紅いおこわを混ぜとくのんどす。

こうしてきちんと挨拶を通しといたら、一旦は辞めて新しい人生を目指したけど、やっぱりあかんかった。やっぱし元の花街でもっぺんやり直そ、ちゅうときには、また元の花街へ戻って来ることが出来んのどす。実際、帰って来やはったお姉さん方もようけいたはりますえ。

「○×ちゃん、あんた辞めはんにゃてなぁ。せっかく舞も上手になって来たとこやのに勿体ないなぁ」
「すんまへん、おかぁさん。けど、うちどうしてもやってみたい仕事があんのどす、今のうちやないと出来しまへんさかいに」
「ふぅ〜ん、そうか、まぁいっぺん自分の気ぃが済むようにやってみたらよろし。けど、もしそれがあんじょういかへんかったらいつでも帰っといないや、何も遠慮※1せんでもえええ」
「おおきに、おかぁさん。※2きずいなことばっかし云うてかんにんどす。またそんときには宜しゅうお頼申しますぅ」

辞める理由は人それぞれどっしゃろけど、一時は自分が憧れて入った世界、何の未練も無いちゅうことはおへんどっしゃろ。中には後ろ髪引かれながらも花街を去っていかんならん妓もいてる筈どす。例えば、いろんな世間のしがらみで旦那はんを取ることになっても、どないしてもその旦那が気に入らん、そこで旦那には内緒で、引き祝いの白蒸しに中に紅いのんをちょこっと入れておく、ちゅうのはささやかな抵抗なんどすえ。
これには、「今回、訳あって旦那に落籍されて出てきますけど、じきに戻って参りますさかいに、そんときはまた宜しゅうお頼申します」ちゅう意味合いが込められたぁんのどすて。

※1 【せんでもええ】 しなくて良い
※2 【きずい】 気随・わがまま、勝手なこと


■このコンテンツは藤村屋電子瓦版の記事を再構成して掲載しております。

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2003年01月14日 15:43に投稿されたエントリーのページです。

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